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【第11回】家庭内・外の労働時間とボランティア参加との関係
      -忙しい人ほどボランティアに参加しないのか?

東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 小林江里香

高齢者のボランティア活動への参加は、地域・社会への貢献という意味での社会的意義があることに加え、適度な参加は、心身の健康維持にも良い効果をもたらすことが報告されています。しかしながら、少子高齢化が進む中で、高齢者に期待されている役割はボランティアだけではありません。高齢者の就労促進は重要な政策課題となっていますし、長寿化により家族介護者も高齢化しています。また、育児支援を期待されている祖父母も多いことでしょう。就労、ボランティア、家事、介護・子どもの世話など、有償か無償かにかかわらず、財やサービスを生み出す活動を「プロダクティブな活動」と呼びますが、複数のプロダクティブな役割の両立は、若い世代だけでなく、中高年世代にとっても課題となりつつあります。

本研究では、ボランティア活動への参加が、就労や家庭内労働への従事時間により、どのように異なるかを調べました。他の活動に参加する場合、時間的・労力的な制約からボランティア活動への参加は少なくなるのではないかと思われるかもしれません。しかし、これまでの研究をみると、このような役割競合が起きることを支持するものばかりではなく、ある活動に参加する人ほど別の活動にも参加するという、役割補完を支持する研究もあります。役割補完が起きる理由としては、ある活動に参加することで、別の活動の情報や機会を提供してくれるネットワーク・組織につながりやすい、ある活動で得た知識・スキルが別の活動でも役立つことなどが考えられています。

分析対象者は、2012年(第8回)調査における新規対象者(当時60~91歳)約1,300人です。ボランティア活動については、図1の6種類の活動について、過去1年間の活動頻度の合計を尋ねました。分析対象者のうち、この1年にボランティアに全く参加しなかった人は56%、年に数回程度参加した人は24%、月に1回以上参加した人は20%でした。家庭内労働は、介護、孫の世話、家事の3種類の活動への従事時間により把握しました(図2)。

図1. ボランティア活動の質問

図2. 就労と家庭内労働の質問

結果を紹介します。図3は、就労時間(上段)、3種類の活動を合わせた家庭内労働時間(下段)のそれぞれと、「年数回程度」「月1回以上」のボランティア参加との関係を示したものです。例えば、就労時間が月に「50時間未満」「50時間以上150時間未満」「150時間以上(フルタイム相当)」の人のボランティア参加の確率が、就労していない人(非就労者)の何倍になるかを表しています。つまり、1より大きければ非就労者に比べてボランティアに参加しやすく、逆に1より小さければ参加しにくいことになりますが、星印(*)がついていない数値は、統計的には1とは差がありません。

図3の上段のグラフより、年数回程度のボランティア参加については就労状況による差はない一方、月1回以上のボランティアについては、フルタイム(月150時間以上)就労者は非就労者に比べて参加しないことがわかります。月150時間未満働く就労者については非就労者との差はありませんが、月に50時間未満だけ働く人(不定期に働く人を含む)では、むしろボランティアに参加している傾向がみられます。家庭内労働(下段)については、概して、家庭内労働に従事する人ほどボランティアにも参加する「役割補完」が当てはまりました。もっとも、家庭内労働についても、月150時間を超えると、就労の場合と同様に、月1回以上のボランティアには参加しない「役割競合」の傾向がみられています。

図3. ボランティア参加:就労、家庭内労働時間別

(注)† p<.10 * p<.05 ** p<.01
分析手法:多項ロジスティック回帰分析(1,310人を分析)
共変量:性、年齢、婚姻状況、世帯人数、教育年数、経済状態、主観的健康、身体機能、抑うつ傾向、宗教的行動頻度、就労/家庭内労働時間


次に、家庭内労働の種類別に分析した結果(図4)、「孫の世話」や「家事」では、これらの活動に従事する人ほどボランティアにも参加する傾向がみられました。さらに詳しく分析すると、孫の世話を月に30時間以上している人では、近所の人や地域組織とのつながりが多い人が多く、このことがボランティア参加にもつながっている可能性が示唆されました。「介護」時間については、図4の通り、ボランティア参加との有意な関連は認められませんでしたが、配偶者の介護をしている人では、月1回以上のボランティア参加は少なく(図略)、介護相手により異なる介護の身体的・心理的負担の大きさを考慮に入れる必要がありそうです。

図4. ボランティア参加:3種類の家庭内労働時間別

(注)† p<.10 * p<.05 ** p<.01
分析手法:多項ロジスティック回帰分析(1,310人を分析)
共変量:性、年齢、婚姻状況、世帯人数、教育年数、経済状態、主観的健康、身体機能、抑うつ傾向、宗教的行動頻度、就労時間

本研究の結果から、フルタイム就労者については、月1回以上など定期的なボランティア参加は少し難しいかもしれませんが、年に数回程度の参加であれば問題なさそうです。地域活動に関心がある人は、退職前からボランティアに少しずつ参加し、退職したら参加時間を増やすというのが現実的かもしれません。少しでも参加しているほうが、全く参加していないよりも、退職後のボランティア参加はスムーズに進むのではないでしょうか。仕事からの引退に伴い、ボランティア活動への参加がどのように変化するのかは、今後、調査を継続する中で明らかにしていきたいと思います。

他方、注意が必要なのは、家庭内労働をほとんどしていない人々です。家庭内労働をしていない人はボランティア活動もしていない傾向があり、家庭内・地域内ともに役割がみえません。健康上の問題が両方の活動を妨げている可能性もありますが、この傾向は、健康状態を統計的に調整しても残ることから、別の要因の関与も考えられます。これらの人々の特徴や不参加の理由、どのような支援が必要であるのかについては、さらに研究が必要です。

<出典>
Kobayashi E, Sugihara Y, Fukaya T, Liang J. Volunteering among Japanese older adults: How are hours of paid work and unpaid work for family associated with volunteer participation? Ageing & Society, 39(11), 2420-2442, 2019.
https://doi.org/10.1017/S0144686X18000545 (First published online: 17 July 2018)

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