プロジェクトについて
プロジェクトの目的と歴史
この研究は、1986年に、東京都老人総合研究所の社会学部(当時)が中心となり、米国のミシガン大学との共同研究としてスタートしました。現在は、東京都健康長寿医療センター研究所(旧 東京都老人総合研究所)社会参加とヘルシーエイジング研究チームが引き継ぎ、ミシガン大学、東京大学高齢社会総合研究機構など多くの研究機関の研究者と連携して進めています。
この研究では、全国の60歳以上の方を対象とした面接調査を行い、心身の健康や生活習慣、家族、友人・近隣関係、社会参加、経済状態など、高齢期の生活を様々な側面から調べています。1987年(昭和62年)に第1回調査を実施し、その後、新しい対象者を追加しながら約3年ごとに追跡調査を続け、2006年(平成18年)に第7回調査、2012年(平成24年)に第8回調査、2017年(平成29年)に第9回調査、2021年(令和3年)に第10回調査を実施しました(図1参照)。
この調査の特徴は、同じ人を繰り返し調査している点(「パネル調査」あるいは「縦断調査」と呼びます)にあります。同じ人を継続して調査することにより、中高年者の心身の健康・生活の変化の様子や、そのような変化が起きた原因は何か、元気で長生きできているのはどのような人か、といったことがわかります。このような研究(縦断研究)は、日本でも最近はめずらしくなくなってきましたが、1980年代から行われている私たちの研究は、その先駆的研究と言えます。
※調査方法については、こちらの「調査方法の概要」もご参照ください。
「変化」をみているため、継続して質問している調査項目が多いのですが、そのときどきの研究動向や社会情勢に合った研究課題を設定し、それに沿って質問項目の入替や追加をおこなっています。
たとえば、第1回(1987年)から第4回(1996年)調査までは、「高齢者の健康と幸福感の日米比較」を主な課題として、欧米で使用されていた様々な健康指標や主観的幸福感(subjective well-being: SWB)の尺度が、日本の高齢者でも同様に使用できるかの検討や、SWBに影響を与える要因、例えば、ソーシャル・サポート、社会的ネットワーク、ライフイベントなどについての検討がおこなわれました。
次に、第5回(1999年)から第7回(2006年)までは、介護保険制度が2000年から施行されたこともあり、私的・公的な支援の必要性が高まる後期高齢者の課題により焦点を当てました。そのため、第5回調査では70歳以上の対象者を新たに抽出して追加し(図1のD)、第7回調査では、高齢者と子どもの間の支援の授受の状況をより詳細に調べるため、対象者D(2006年当時77歳以上)のお子さん(平均年齢54歳)への郵送調査もおこないました。
1987年からの長期にわたる調査は、本研究の大きな利点である一方、ある時点の高齢者に対して得られた結果が、現在の高齢者にも適用できるのかという疑問も生じます。そこで、第8回調査(2012年)および第10回調査(2021年)では、60~92歳の新規標本(図1のE、F)を追加し、これまでの研究課題に加えて、高齢者の時代的・世代的な変化にも着目しました。
これにより、団塊の世代を含む戦後生まれの人々が対象者に加わり、今後も追跡調査を継続できれば、将来的には、戦後生まれ世代の加齢に伴う変化を、それ以前の世代における加齢変化と比較できることが期待されます。
A:1893-1927年(明治26~昭和2年)生まれ
B:1927-1930年(昭和2~5年)生まれ
C:1930-1936年(昭和5~11年)生まれ
D:1898-1929年(明治31~昭和4年)生まれ
E:1920-1952年(大正9~昭和27年)生まれ
F:1928-1961年(昭和3~36年)生まれ
調査名とプロジェクト名
対象者の方に、調査を依頼する際に用いている調査の正式名は、研究テーマや対象者の年齢により表1のように変遷してきました。
調査回 | 調査名 | 実施年 | 調査実施主体 |
---|---|---|---|
第1回 | 全国高齢者調査 | 1987 | ミシガン大学老年学研究所 東京都老人総合研究所 |
第2回 | 高齢者日米比較調査 | 1990 | 同上 |
第3回 | 同上 | 1993 | 同上 |
第4回 | 中高年者日米比較調査 | 1996 | 同上 |
第5回 | 長寿社会における高年者の暮らし方の日米比較調査 | 1999 | 東京都老人総合研究所 東京大学文学部 ミシガン大学老年学研究所 |
第6回 | 同上 | 2002 | 同上 |
第7回 | 同上 | 2006 | 東京都老人総合研究所 東京大学 ミシガン大学 |
第8回 | 長寿社会における中高年者の暮らし方の調査 | 2012 | 東京都健康長寿医療センター研究所 東京大学高齢社会総合研究機構 ミシガン大学 |
第9回 | 同上 | 2017 | 同上 |
第10回 | 同上 | 2021 | 東京都健康長寿医療センター研究所 |
現在、論文等では、この長期縦断研究のデータベース名またはプロジェクト名として、NSJEとJAHEADの2つの略称が使用されています。
NSJEは、第1回調査の調査名である「全国高齢者調査」、すなわち、"National Survey of the Japanese Elderly"から来ています。本研究の匿名化された個票データ(第1回~第4回)は、ミシガン大学のICPSRのデータアーカイブ上で公開され、日本以外の研究者によっても分析に利用されていますが、アーカイブではNational Survey of the Japanese Elderlyという調査名で登録されているため、海外で研究発表する際にはNSJEがよく使用されています。
なお、個票データは、東京大学のSSJデータアーカイブにおいても、「全国高齢者パネル調査」という調査名で公開されており(2023年3月現在、第8回調査まで)、多くの研究者にご活用いただいています。
※個票データの利用についてはこちらの「データの利用」のページをご覧下さい
他方、JAHEADは、第5回調査において、ミシガン大学の社会調査研究所によるAHEAD研究(Study of Assets and Health Dynamics among the Oldest Old:後期高齢者の資産と健康のダイナミクス)の研究枠組みを参考にしたことに由来しており、Japanese AHEADの略として、第5回調査から用いるようになりました。
もっとも、第8回調査では、60代の対象者が加わり、資産(Assets)についての質問項目もほとんどなくなったため、現在は、Japanese Aging and Health Dynamicsの略としています。
このように、今ひとつ統一感に欠ける、調査名やプロジェクト名の変遷は、30年以上にわたる本研究の試行錯誤の歴史を象徴しているのかもしれません。