研究成果トピックス研究成果トピックス

【第6回】子どもと同居する高齢者は幸せか-世代的・時代的変化をさぐる

東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 小林江里香

同一期間に生まれた集団を出生コホート(以下、コホート)と呼びます。「団塊の世代」などと用いる場合の「世代」とほぼ同じ概念です。人生の過程で経験した歴史的背景や出来事はコホートにより異なるため、行動や意識にも違いが生じることがあります。特に日本では、家族との関係性や家族観が戦後大きく変化しており、家族とのつながりが高齢者の幸福感(well-being)に与える影響も、コホートによって異なることが予想されました。

本研究では、まず、調査の対象者を出生年により表1の4つのコホート(C1~C4)に分けました。明治、大正生まれのC1とC2のコホートは、第二次世界大戦終結時(1945年)にはすでに成人しており、その多くが、戸主が強い権限をもつ家制度に基づいた、旧民法下で結婚しました。一方、C3とC4は、高度経済成長期のころに就職や結婚をしたコホートです。いわゆる「昭和ヒトケタ世代」はC3に、「団塊の世代」はC4に含まれます。

表1 出生コホートと年齢によるグループ分け

注)年齢は、調査年の12月末時点の年齢。C2OO、C3OOは後から追加された標本を用いており、C2YO、C3YOとはコホートは同じでも回答者が異なる。

ところで、コホート研究で難しいのは、一時点の調査データでは、出生年の異なる集団の違いが、コホート差なのか、加齢変化なのかはっきりしないことです。本研究では、1987年(第1回)、1999年(第5回)、2012年(第8回)の3時点の調査データを用い、C2とC3については、70代前半までの前期高齢者(young-old:YO)のときと、70代後半以降の後期高齢者(old-old:OO)のときの結果を比較できるようにしました。C1についてはOO、C4についてはYOのみのデータがあります。このように、コホートと調査時の年齢の組み合わせによって、表1の6つのグループができました。

研究全体では、高齢者の様々な社会的つながりと人生満足度との関係の強さが、これらの6グループによって異なるのかについての分析を行いましたが、ここでは子どもとの同居に関する結果を中心に紹介します。人生満足度は、「今が自分の人生で一番幸せなときだ」「自分の人生をふりかえってみてまあ満足だ」「これから先にもおもしろいこと、楽しいことがいろいろありそうだ」という3項目の合計で、幸福感の指標として用いました。

図1は、同居の子ども(同居子)の存在と高齢者の人生満足度の関連の強さを、性別と先ほどの6グループ別に示したグラフです。縦軸の値がプラスの大きな数字であるほど、「同居子がいる人ほど人生満足度が高い」という関係が強いことを意味します。

図1 表1のグループ別にみた同居子の存在と人生満足度との関連の強さ

注)IBM SPSS Amosを用いた6グループでの多母集団同時分析による。縦軸の数値は、同居子が人生満足度に与える効果の非標準化係数を表す。アスタリスク(*)は、統計的に有意な関連がある(有意確率5%未満)ことを示す。同居子以外の条件(配偶者の有無、別居子との交流頻度、友人等との交流頻度、グループ参加頻度、就労の有無、身体機能、経済状態)は一定となるように調整。

この図が示すように、女性では、コホートによる違いが明確にみられました。すなわち、C1・C2の女性では、同居子がいる人ほど人生満足度が高かったのですが、その関係性はC3・C4では弱まり、統計的には有意な関係ではなくなっていました。C2とC3が調査対象であった1999年調査の結果だけをみると、年齢差(YOとOOの差)が大きいようにみえますが、実際にはコホート差(C2とC3の差)が大きかったことがわかります。図では、男性の場合もコホート差があるようにみえますが、女性ほど明確な傾向ではありませんでした。

なお、最近のコホートでは、同居子が未婚である割合が高まっていることから、同居子を配偶者のいる子(既婚子)といない子(未婚子)に分けた分析も行いましたが、既婚子に限っても上記の結果は変わりませんでした(ちなみに、未婚子との同居が高齢者の人生満足度を高めているグループはありませんでした)。

このようなコホートによる違いは何によるのでしょうか。1つには、高齢者の間でも「子どもとの同居は当たり前」あるいは「同居できない高齢者は不幸」といった価値観が、最近のコホートでは薄れつつあることが考えられます。例えば、内閣府が1980年から5年ごとに実施している高齢者調査でも、「子どもや孫とは、いつも一緒に生活できるのがよい」と考える人の割合は調査回を重ねるごとに減少し、2005年に「ときどき会って食事や会話をするのがよい」が「いつも一緒に」を上回って以降は、両者の差が広がる一方です(内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」)。

別の側面としては、高度経済成長期には国民皆年金など社会保障制度が整備されたため、その恩恵を受けたC3・C4は、それ以前のコホートに比べて、子どもとの同居により経済的安定をはかる必要性が低くなったことが挙げられます。

女性高齢者の場合、前述のように人生満足度における同居子の重要性の低下がうかがえる一方で、最近の調査年ほど、友人や近所の人との交流が多い人ほど人生満足度が高いという傾向が強くなっていました。研究成果トピックスの【第4回】では、同居家族以外との交流頻度からみた社会的孤立者の割合が女性では減少していることを報告しましたが、家族以外にも交流相手をもつことは、女性の心理面における重要性も増しているようです。

<出典>
Kobayashi E, Liang J, Sugawara I, Fukaya T, Shinkai S, Akiyama H. Associations between social networks and life satisfaction among older Japanese: Does birth cohort make a difference? Psychology and Aging, 30(4), 952-966, 2015.
https://doi.org/10.1037/pag0000053

お問い合わせ

jahead@tmig.or.jp

【事務局】
〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム
(担当:小林)