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【第5回】高齢者と電子メール・インターネット

東京都健康長寿医療センター研究所
トランスレーショナルリサーチ推進室 深谷 太郎

このサイトをご覧になっている方は、「インターネット」とか「電子メール」とかは水や空気同様、生活するのに必要なものとなっているのではないでしょうか。インターネットを使えば、居住地のゴミを出す日が何曜日か、とか、年賀状の当選番号が何番か、とか、これまでは役所の広報誌や新聞を取っておいたり、役所や郵便局に行ったり電話したりしないと分からなかったことが、自宅にいながら(スマートフォンを用いれば自宅にいなくても)容易に入手する事ができるようになりました。しかし、総務省の平成26年版情報通信白書によると、50歳を過ぎるとインターネットの利用率が下がり、80歳以上になると、5人中4人はインターネットを利用していません1)。この原因については、学術的にはこれまであまり検討されてきませんでした。

そこで、本研究では、どのような人が利用していて、どのような人が利用していないかを、「インターネット(サイト閲覧など)」と「電子メール」に分けて利用の実態を探ることにしました。インターネットと電子メールについての質問は、もっとも新しい2012年の第8回調査から導入されたものですので、分析にはその第8回調査データを使いました。インターネットは、月に1回以上利用している場合、電子メールは、月に1回以上送っている場合を、それぞれ利用ありとしています。

まず、全体でみると、電子メールの利用もインターネットの利用も年齢が高くなるにつれて利用する割合が減っていました(図1)。

図1 電子メールとインターネットの利用率(全体)

しかし、男女別でみると、全体的な傾向は同じですが、細部が異なっていました。

論文にはスペースの関係で掲載できませんでしたが、それぞれの利用率を年齢・性別に表したグラフが図2になります。図2左側の電子メールは、60~69歳に限れば、利用している割合は女性は男性より10%以上高く、女性の方が電子メールを活用していることが分かります(70歳以上になると差が無くなります)。一方のインターネットはどの年齢階級でも男性の方が女性より10%以上利用率が高くなっていました。

図2 電子メールとインターネットの利用率:年齢階級別男女別

電子メールとインターネットの利用状況の違いに着目すると、電子メールは親しい友人や近所の人が「いる」人と「いない」人の間には利用率で大きな差がありました。しかし、インターネットについては、親しい友人・近所の人が「いる」人と「いない」人の利用率には、統計的に意味のある差はみられませんでした(図3)。他の人とのコミュニケーションの手段として利用されている電子メールと、そのような双方向のやりとりがなくても利用できるインターネットの違いが浮き彫りになりました。

図3 電子メールとインターネットの利用率:親しい友人・近所の人の数別

ただし、これらの結果は、調査時点の情報しか活用できていません。年齢が高いほど利用が減るのは加齢に伴うものか、はたまた、初めて電子メールやインターネットに触れた時期によるものなのか、このデータでは分かりません。今後、第9回、第10回と調査を重ねていくことで、年齢と電子メール・インターネット利用との関係について、より多くのことがわかると思います。今後とも本調査へのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

<出典>深谷太郎・小林江里香・杉澤秀博・Jersey Liang・秋山弘子:高齢者の電子メールおよびインターネット利用に関連する要因.老年社会科学, 38(3) : 319-328 (2016).

<本記事での引用文献>
1)総務省:平成26年版情報通信白書

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