研究成果トピックス
【第2回】BMIが落ちやすいのはどんな人?社会経済状態とBMIの推移の関係
東京大学高齢社会総合研究機構
村山 洋史
第1回に引き続きBMI(Body Mass Index)のお話です。前回は、やや太めであまり体重変化がない方が死亡率は低く、やせで体重が減少傾向であると死亡率が高いという結果をお示ししました。それでは、このようなBMIの推移にはどのような要因が関係しているのでしょうか?今回は、教育レベルや収入といった社会経済状態に着目し、BMIの推移との関連を調べました。データは、前回と同じく1987~2006年(第1回~第7回調査)までの7時点(19年間)のものを用いています。
社会経済状態とBMI(あるいは肥満)の関係を調べた研究を概観すると、その国の経済発展レベルが関係していることが分かります。主に欧米諸国を含む先進国では、教育レベルの高さはBMIが低いことや体重減少に関連し、一方でBMIと所得との関連はないとの報告が多くあります。一方、途上国では、教育レベルや所得の高さはBMIの高さや体重増加に関連することが報告されています。日本は先進国でありながら平均BMIは同じ先進国の欧米諸国のそれよりもはるかに低いという特徴を持っています。そのため、先行研究を参考にしながらも、日本独自の知見を示していくことが必要となります。
図は、社会経済状態とBMIの推移との関連を示したものです。左の教育レベルは、学校に行った年数が「6年(小学校卒業程度)」、「9年(中学校卒業程度)」、「12年(高校卒業程度)」、「16年(大学卒業程度)」の4つの年数に回答した人のBMIの推移を代表して示しています。右の世帯収入は「年120万円未満」、「年120~300万円」、「年300~500万円」、「年500~1,000万円」、「年1,000万円以上」の5つのカテゴリーに回答した人のBMIの推移を示しています。
(注)調査開始時点の年齢、性別、婚姻状況、就業状況、世帯人数、もう一方の社会経済状態(教育レベルの場合は世帯収入、世帯収入の場合は教育レベル)、保有疾患数、主観的健康感、生活機能、調査途中での死亡と脱落を調整.
この研究では、大まかに、以下の4つのことが分かりました:
- 教育レベルが高いほど、観察期間全体における平均BMIが低く、より直線的に速く減少する傾向がある(左図)。
- 世帯収入では、教育レベルでの関連とは逆の方向性、すなわち、世帯収入が低いほど、観察期間全体における平均BMIが低く、減少スピードがより直線的で速い傾向がある(右図)。
- 世帯収入がBMIの推移と関連する理由としては、収入が低い者ほど保有疾病が多く、主観的健康感が低く、結果としてBMIの低さや減少パターンを引き起こしている可能性が考えられる。
- これら社会経済状態とBMIの推移との関連性には、性別および年齢による違いはない。
教育レベルに関しては、先進国における先行研究と同様の傾向が見られました。一方で、世帯収入は教育レベルとは逆の関連が見られたことから、日本は必ずしも欧米先進国で観察される知見は当てはまらないことが分かりました。この世帯収入とBMIの推移との関係には、日本独自の背景が影響しているように思われます。一般的に、収入が高いことによって、健康に好影響をもたらす社会資源にアクセスしやすくなると考えられています(例えば、お金に余裕があると、オーガニック食品を購入できたり、フィットネスセンターに通えたり、人間ドッグを受けられる)。高齢期のやせや低栄養が問題となっている日本では、収入が高いことは、やせや低栄養を予防する方向、すなわちBMIが高く、減少しにくい方向に影響していたのではないかと考えられます(栄養価の高い食品を摂取できたり、積極的に運動をして筋肉を維持したりすることができたのかもしれません)。
教育レベルの高い人は健康管理能力が高いがため、高齢期においても中年期同様の体重管理を意識し実行している可能性が考えられますが、高齢期でのやせや体重減少のリスクについても広く認識してもらう取り組みが必要といえるでしょう。一方、世帯収入に関しては、収入が低いことによって社会資源へのアクセスが制限されることのないよう、マクロな視点では所得格差の是正が必要です。加えて、低所得者への疾病管理・健康支援も重要な対策として挙げられます。
<出典>Murayama H, Liang J, Bennett JM, Shaw BA, Botoseneanu A, Kobayashi E, Fukaya T, Shinkai S. Socioeconomic status and the trajectory of body mass index among older Japanese: a nationwide cohort study of 1987-2006. J Gerontol Psychol Sci Soc Sci. 71(2), 378-388,2016
https://doi.org/10.1093/geronb/gbu183