研究成果トピックス
【第1回】60歳を過ぎたらぽっちゃり体型を維持することが健康の秘訣!?:BMIの推移パターンと死亡率の関係
東京大学高齢社会総合研究機構
村山 洋史
健診結果などでよく見かけるBMI(Body Mass Index)という指標があります。これは、体格指数と呼ばれ、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で除した値になります(体重÷身長2[kg/m2])。世界的には、世界保健機関(WHO)の基準により、BMIが18.5未満で「やせ」、18.5~25未満で「標準」、25~30未満で「過体重」、30以上で「肥満」と分類されます(日本では日本肥満学会の基準により、18.5未満で「やせ」、18.5~25未満で「標準」、25以上で「肥満」と分類)。
このBMIは将来の死亡率を予測する優れた指標として知られています。20歳以上の成人では、BMIが標準の人に比べて、やせや過体重は死亡率が高く、さらに肥満だとそれ以上に死亡率が高いという「J字型」の関係を持っていることが分かっています。しかし、高齢期に限ってみてみるとこの関係性が逆転し、やせであることは、過体重や肥満以上の死亡リスクであることが報告されており、これは「Obesity paradox in old age(高齢者での肥満仮説の矛盾)」とも呼ばれています。加えて、体重変化も死亡率に影響を与える要因であり、体重が一定、あるいは変化が少ない人に比べ、体重が増加または減少した人は死亡率が高いことが報告されています。
ところで、これらの研究はある1時点のBMIの値、あるいは2時点のBMI値の変化を調べることによって死亡率との関連を調べています。しかし、現実にはBMIは長期的に変化していくものです。より実際に即した高齢期の体重管理の方策を提示するためには、同じ対象者を繰り返し調査することによって自然なBMIの推移パターンを把握し、それに基づいた議論が重要となります。今回は、1987~2006年(第1回~第7回調査)までの7時点(19年間)のデータを用い、①日本人高齢者のBMIの推移はどのようなパターンに分類できるのか、②その推移パターンの分類によって死亡率の違いがあるのか、という2点を検討しました。
日本人高齢者のBMIの推移は、以下の4つの群に分類することができました(図1)
- 1群:
- やせ・減少傾向(ベースラインではBMI=18.7とやせ気味で、そこから経年的に減少);全体の24%
- 2群:
- 標準・減少傾向(ベースラインではBMI=21.9で標準的だが、そこから経年的に減少);全体の44%
- 3群:
- 標準高め・減少傾向(ベースラインではBMI=24.8と標準域やや高めで、そこから経年的に減少);全体の27%
- 4群:
- 過体重・一定(ベースラインではBMI=28.7と過体重だが、一定で推移);全体の5%
それぞれの群に含まれる割合から、2群の「標準・減少傾向」という推移をたどる人が多いことが分かります。
さらに、すべての死因を含めた総死亡率が、この4群でどのように違うかを検討しました。死亡は、2012年12月までの死亡状況を調査しています。ベースラインの社会人口変数、健康行動、健康状態等の影響を取り除いた上で総死亡率との関連を見たところ、2群に比べ、1群は死亡率が高く、3群と4群は死亡率が低くなっていました(図2)。BMIが低いことは、エネルギーや栄養の蓄積能力が低く、例えば感染に脆弱なことで死亡率が高まると知られていますし、BMIが減少することは、その背景に骨量や筋量の減少が存在する可能性があり、例えば免疫力や身体機能の低下が起こることで死亡率が高まることが報告されています。これらを踏まえると、今回の結果は理にかなったものと考えられます。
現在の日本では、中年期以前の体重管理対策は『メタボ予防』に代表されるような肥満予防に重点が置かれています。しかしこの研究により、高齢期には中年期以前の体重管理とは異なり、やせや体重減少への対策が重要であることが示されました。日本人高齢者では、標準域より高めのBMIを推奨し、それを維持できるよう努めることが大事になります。
(注)追跡期間中(2012年12月まで)に死亡するリスクについて、2群を基準(ハザード比=1)として示したもの。2群の人に比べて、1群の人が死亡するリスクは17%高く(ハザード比=1.17)、3群、4群はそれぞれ18%、28%低い(ハザード比=0.82と0.72)ことを表している(棒は、ハザード比の95%信頼区間)。
<出典>
Murayama H, Liang J, Bennett JM, Shaw BA, Botoseneanu A, Kobayashi E, Fukaya T, Shinkai S. Trajectories of body mass index and their association with mortality among older Japanese: Do they differ from those of Western populations? American Journal of Epidemiology 2015; 182(7): 597-605.