研究プロジェクト

社会参加・社会貢献研究

(テーマリーダー:藤原佳典)

1)世代間交流プログラムを通じた高齢者ボランティアの課題の整理と支援策

高齢者は心身機能の低下等、負のライフイベントに直面しやすいため、ボランティア活動を長期に継続することは困難とされてきた。H16年から展開している高齢者による学校支援ボランティア活動「REPRINTS」を主な研究対象に、ボランティア個人レベルと団体レベルの2側面から長期継続のための支援策を提示することを目標に以下の3つの研究を実施している。

  1. 学校支援ボランティア(REPRINTS事業)の長期介入(250人、最長7年観察)の整備と現況調査を実施中である。
  2. 学校支援ボランティアを対象に、心身機能が低下しつつある高齢者ボランティアでも活動を継続できる支援策について三者(一般高齢者ボランティア、ボランティア団体役員、活動施設職員)にインタビュー調査を実施した結果、高齢者ボランティア間での「老い」への認識の齟齬が課題であることがわかった。
  3. 高齢者の社会貢献に対する意識・意欲を測る、新たな高齢者のQOL尺度「次世代育成感尺度」を作成している。

2)地域高齢者における社会的孤立の実態と予防策の提案

2008年度より、高齢者の社会的孤立に関する実態把握と地域における重層的な予防策の提示を目指し、以下の3つの研究を進行中である。(厚生労働科学研究補助金助成)

  1. 社会的孤立に関わる2年後の和光市高齢者追跡調査
    2008年度に初回調査を行い2010年度2,300人を対象に追跡調査を実施し1,782人(78.3%)より回答を得た。孤立者の2年後の状況は、「脱落(転出・死亡等で調査から除外、未回収)」33%、「孤立」40%、「非孤立」23%であり、非孤立者に比べて脱落者や孤立継続者の割合が高いことが分かった。
  2. 孤立死リスク者への早期発見策の提示
    和光市、川崎市多摩区、多摩市全16地域包括支援センター職員へのインタビューから孤立死リスク者の早期発見の要件と問題事例への対応法を整理した。賃貸住宅、新興住宅、公的機関の活用方法に関する意識・知識が低い人が多い地域では、対象者の状態が重度化した時点で、関係者により偶然に発見される場合が多いことが分かった。これらの要件を踏まえて地域住民向けに見守りのポイントを提示したチェックリストを作成した。
  3. 孤立死リスク者の支援策の提示
    2011年度から大田区大森地区において、独居の認知症高齢者を対象とした屋内見守りセンサーと屋外活動量計を用いた地域包括ケアシステムのパイロット実験を行う。

3)その他の研究

  1. 温泉利用型施設を用いた総合健康増進プログラムの開発と評価:「場」(=温泉)に集う社会参加型介入プログラム「通称すぷりんぐ」を開発し、草津町および埼玉県越生において無作為割付比較対照試験(RCT)を行ってきた。介護予防型、生活習慣病予防型両教室とも、運動+栄養介入群に運動機能の有意な改善が認められた。また運動教室の継続は、入浴時にも血圧を一定に保つ安全性も示された。
  2. 社会参加を阻害する軽度認知機能低下の早期発見・対応策の提示
    (a) 軽度認知機能低下(MCI)のスクリーニング尺度Montreal Cognitive Assessment (MoCA)の日本語版MoCA-Jを開発し、2年間追跡した。MoCA-Jは認知機能の継時的変化を評価する際に、MMSEやHDS-Rに比べて有効な検査であることを示した。
    (b) 認知機能低下に関連する生化・生理学マーカー(血清プラスマローゲン、中心血圧等)の探索にむけて基礎データを収集中。(帝京大、旭化成ファーマとの共同研究)
    (c) 認知機能低下予防に向けた認知介入研究
    記憶力の愁訴のある地域高齢者を主な対象にりぷりんとプログラムを応用し絵本の朗読を教材とした自己表現型認知介入プログラムを開発しRCTを遂行中である。中間評価では、記憶の手がかり再生、実行機能において介入群は有意な改善を見た。