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海馬 ー 今朝、歯ブラシの置き場を覚えていましたか?あなたの海馬は大丈夫です。
海馬は辺縁系に属し、高度に処理された情報を全ての感覚系から受けとっている。海馬はブリスとレモによりはじめて神経可塑性 が観察された所である。その可塑性は長期増強(long-term potentiation, LTP)と呼ばれる、活動依存性の神経伝達効率の亢進である。海馬LTPの発見以来、多くの研究者が、海馬を記憶や学習の研究対象としてきた。
  現在までに明らかにされてきた記憶における海馬の役割は記憶の強化、すなわち、短期の陳述記憶を長期のものに変換するということである。てんかん治 療のために両側性の海馬除去手術を受けた患者(H.M.)では、重度の前向性健忘症が引き起こされるが、子供の頃の事を覚えていることから、すでに存在し ていた過去の記憶は正常であると考えられる。H.M.は繰り返していれば、いろいろな事柄を覚えることができたが、一旦注意がそれる と、事柄を思い出せず、何をしていたかさえも思い出せないという。H.M.は同じ雑誌を繰り返し読む、彼にとって、読んでいた雑誌から注意が それた瞬間に、その雑誌は新刊の雑誌となる。また、歯を磨いたあと、歯ブラシが置いてあった場所が わからないとい う。しかし、興味深いことに、H.M.は技術や身体の動きを伴うような学習(非陳述記憶)は正常であったという。
 H.M.で観察された症状は海馬について、そして、記憶について下記のような興味深い性質明らかにしてくれる。

1)短期記憶には海馬は必要ない。
2)短期記憶には、繰り返しや、注意を向ける必要がある。
3)子供の頃の記憶等過去の記憶の再生は海馬は必要ない。
4)子供の頃の記憶は海馬には貯えられていない。
5)長期の陳述記憶には海馬が必要である。
6)非陳述記憶は海馬以外の部分で扱われている。