写真ー鈴木真佐子 | |
Cre-loxP遺伝子組換え系を用いた条件的遺伝子欠損法 小脳プルキンエ細胞において、Cre-loxP遺伝子組換え系を用いてERK2遺伝子欠損を持つマウスを作出し た。Creを発現するマウスの作出にはL7プロモーターを用いた。緑色で示 したERK2は脳の全域で観察されたが、上図の小脳プルキンエ細胞でのみ欠損していた(黒く抜けている部分)。プルキンエ細胞は赤色のカルビンジン染色で示した。この図から、プルキ ンエ細胞特異的にERK2欠損がおこっていることが観察された。全身でERK2遺伝子を欠損したマウスは胎生致死であるが、プルキンエ細胞でのみERK2 を欠損したマウスは正常である。このマウスを使うことにより、小脳プルキンエ細胞におけるERK2の役割を成体マウスにおいて検討することができる。 Cre-loxP遺伝子組換え系は配列特異的遺伝子組換え技術の一つであり、目的とする遺伝子を、目的とする器官、組織、細胞において特異的に欠損させ るこ とができる。現在、各種の動物において条件的遺伝子欠損の作出手段として用いられている。成功例の一つはマウスであり、Cre-loxP遺伝子組換え系に より、上述のERK2の例のように全身遺伝子欠損では胎生致死になる遺伝子でも、ターゲットとする細胞において、成体になってから遺伝子欠損を引き起こす ことができる。それゆえ、ターゲットとするタンパク質欠損の影響を成体において解析することができるようになった。中枢神経系の機能特に高次機能には、神 経ネットワークの構築と 成熟が重要であるため、発達途中では遺伝子を持ち成体になってからはじめて遺伝子を欠損させる技術はタンパク質の生理的機能を中枢神経系で解析する時に重 要である。 細胞A特異的に遺伝子Xを欠損させる時には2系統のマウスが必要である;1)DNA組換え酵素Creを細胞Aにのみ発現するマウス(Cre マウス)、2)欠損させるべき遺伝子XをloxPと呼ばれる配列で囲んだマウス(floxed マウス)。これら2系統のマウスの交配により、細胞Aで発現したCreが2つのloxP配列を認識し、その間にある遺伝子を切り出すことにより、 遺伝子Xを欠損させることができる。遺伝子の欠損はCreの発現に依存しているため、Creの発現がない時、Cre発現がない所では、遺伝子の欠損は起き ない。 floxedマウスの作出は、ES細胞における相同組み換え技術を持つラボにおいては比較的容易である。しかし、必要な時に標的細胞でCreを発現して くれるCreマウス作出は難しい。一般的には、細胞特異的、あるいは、組織特異的プロモーターとCre遺伝子を組み合わせてトランスジェニックマウス を作出する。しかし、適切なプロモーターの選択やCre遺伝子が取り込まれた周辺のマウス遺伝子の影響の評価は容易ではない。そして、Creタンパク質の 発現を詳細に検討し、欲するCre マウス系を確立するのは、時間がかかり、困難である。 |