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運動するとき、小脳も運動する!?

小 脳は読んで字の通り、動物では大脳よりはるかに小さい脳組織である。ヒトの小脳は大脳の1/10の容量しかないが、小脳は大脳以上の数のニューロン を含んでいる。それゆえ、小脳は中枢神経系の中でも人口(神経)密度の高い領域である。
    小脳の役割については小脳傷害の患者で非常に良く調べられている。特に、第一次世界大戦時には”ライフル銃”が開発使用され、以前の銃に比較して銃 弾がまっすぐに飛ぶようになった。そのため、弾丸による傷が小さく、小脳だけが損傷した患者が観察されるようになった。小脳だけに傷害を追った患者の報 告から小脳の生理的役割に関して様々な知見が得られた。
  小脳障害の患者では運動麻痺で動け なくなることはなかったが、運動失調という筋肉の活動の協調性が失われていた。筋肉活動協調性とは、ある運動をする時の伸びる筋肉と縮む筋肉とのバランス 及び伸び縮みのタイミングである。運動はほぼ全て筋肉により制御されているため、その協調性は行動を、なめらかに、素早く、正確に行なうために非常に重要 である。小脳に傷害のある患者では、四肢を協調的に用いる動き、すなわち、歩行、拍手、身体の均衡等の障害が観察 され、さらに、目の動きでも障害が観察された。また、これらの患者は陳述記憶の形成は正常であったが、運動学習等の非陳述記憶が困難であった。
    活動依存性の神経伝達効率の”減弱”(長期抑圧、long-term depression, LTD)は小脳において、東京大学の伊藤正男により発見された。LTDはアルブスとマーが数理モデルで予言していたが、伊藤正男が実験的に これを証明した。小脳の神経回路は単純かつ非常に美しいこと、そして、小脳が運動協調性や運動学習においての役割がはっきりしていることが、多くの研究者 を小脳研究へ駆り立てている。特に、小脳LTDの分子機構は良く研究されている。